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【教職映画上映会】[映画『「生きる」大川小学校 津波裁判を闘った人たち』を忘れない]を開催しました



開催報告

ようやく秋の気配が漂い、木々の葉の色が色づき始めた10月27日(日)合同祭の二日目午前10時、教職映画上映会 映画『「生きる」大川小学校 津波裁判を闘った人たち』を忘れない は始まった。両大学学生の参加者が少ないのが残念であったが、一般の参加者を含め60名足らずの参加者を得た。「生きる」は二時間余りの映画である。黒沢明監督の同名の映画がある。本編は、副題にあるように大川小学校 津波裁判に題材を取っているが、「生きる」ことを考えさせるという点では黒沢映画と同様に意義深いものであった。映画の前後の挨拶、解説、代理人弁護士の講演を通してこの映画を振り返りたい。

初めに大橋保明名古屋外国語大学教職センター長の挨拶があった。福島県のいわき明星大学に勤めているときに東日本大震災を経験している。その経験をもとに『3.11後の教育実践記録』共著をまとめている。「近くでは能登半島地震、能登半島豪雨災害など、さまざまな災害がある。どんな災害が起ころうとも『学校が子どもの最期の場となってはならない』。それを実現するには、専門家だけに任せていてはダメで、皆で考えることが大切ではないか」という挨拶でこの催事はスタートした。『学校が子どもの最期の場となってはならない』は、映画の中で出てくる印象的な言葉である。

 事前の解説は、名古屋学芸大学ヒューマンケア学部子どもケア学科石原貴代講師による。3.11に大川小学校で何があったか。朝、「行ってきます」と元気に出て行ったわが子は、「ただいま」と帰ってくるはずだった。が、津波に襲われていないかと心配していたわが子は帰って来なかった。一体子どもに何があったのか、知りたいという保護者の強い思いがこの映画を作り上げたと言ってよい。命を失った子どもたちが残した、忘れてはいけないこと、伝えなくてはいけないことをこそ私たちは受け取るべきだと思う。誰が悪いかではなく、私たちはどうすればいいのか、命をどう守ればいいのかを皆で考えた方がよい。地域住民だけでなく土地勘のない移住者、外国の人々など、さまざまな人が暮らす中で、それを考えることは喫緊の課題である。来るべき南海トラフ地震にどう備えるか、皆で考える必要がある。考える材料となればと思う。

 このような話の後、二時間ほどの映画を見た。途中、何度も小学生であった時のわが子たちの顔や姿が浮かんだ、いま小学生である孫の顔も浮かびあがる。そこで語られる親の思いに共感しながら見ていたら、おのずと涙がにじんだ。子どもを喪った後も「生きる」親の思いだけではない。災害後を「生きる」さまざまな人の思いがそこにはあった。愛する子どもを喪った親の「生きる」というテーマ以外にもいろいろなテーマが隠れているように感じられた。

 上映後は休憩をはさんで、大川小学校児童津波被災国家賠償訴訟原告代理人弁護士である吉岡和弘氏の講演があった。被災した人たちとともに「生きる」ことを懸命にしたひとである。一審の判決は、学校現場の教員の過失を認めただけのたいへん不十分なものであった。それが二審の高裁は、教育行政も含めた組織的過失という画期的な判決を下した。吉岡氏は最高裁がそれを認めるかどうか疑ったが、最高裁が高裁判決を是認し決着した。弁護士としては、やりがいのある仕事だった。しかし、親は複雑だった。喜びが前面に出ることはない。裁判に勝てば勝つほど自分の子を喪う必要はなかったということが認定されるという皮肉を味わわなければならなかった。
一方で、東日本大震災のことは人々の記憶からどんどん消え去っていく。親からすればそれは、自分の愛しい子どもが十余年社会に存在していた、生きていた証が消えていくことを意味する。子らが生きていた証を人々の記憶に残そうということで、このプロジェクトはスタートしている。吉岡氏の知り合いの寺田監督は、口の重い東北の人たちがマイクに向かって話してくれるだろうかと危惧した。さらに、事件がすべて終わってからの映像制作は困難と口にしたが、それを助けたのは子を喪った只野さんの撮影フィルムである。特に報道陣が入らない学校関係者、教育委員会とのやり取りには臨場感と迫力があった。この映画は、それらの映像と寺田監督が後に撮った映像で成り立つ。
この映画のテーマは、幾重にも重なっている。学校における防災意識・防災体制、学校と地域との関わり、裁判とは何か、弁護活動とは何か、夫婦・親子のきずな・情愛、悲しみの中から立ち上がる力、悲しみながらも何かをやらなければならないという勇気・・・。
 講演は、東京大学教授の言葉で締めくくられる。「この映画がなければ、被災して亡くなった1万八千余人が救われなかった」という言葉は重い。映画は、すでに3万人近い人々が見た。今後も全国で上映会がつづくことになる。

 講演の後、名古屋外国語大学教職センター竹下教授が「生きる」というタイトルの理由を訊ねた。立ち直れない人たちが立ち直って「生きる」姿がそこにはある。それは、子どもたちの、自分たちに代わって生きてほしいという願いを受けた残された者の「生きる」姿でもある。次に、大川小学校を被災記念館として残すことについての回答である。校舎、校庭、裏山までの距離など、被災した状況を肌で感じてほしかった。それが整備され、美しい公園のようになってしまったのは残念だ。国の協力も得て、できるだけそのまま残してほしい。さらに、吉岡弁護士からは、次のような話もあった。学校の危機管理についてである。学校や教員は、何でも責任を取らなければならないということではない。過失責任主義に立って、どこかに不注意があった場合のみ責任を取る必要が生じる。やるべきことをきちんとやっていれば責任は問われない。教員は、やるべきことをきちんとやることを心掛けてほしい。また、管理職に若い人たちが意見をいうことができる環境が必要である。なければその環境を作る必要がある。
 フロアからの感想に対しては、子どもにこの学校に行けと指示した以上、指示した側が子どもの安心・安全を守るべきであるという高裁判事の言葉が紹介された。また、大川小学校の学校組織に問題があったのに、それが第三者委員会で明らかにならなかった点については、第三者委員会が加害者側の理論武装に使われるようなことがあってはならないという話もあった。今回の催しのきっかけとなった加藤滋伸 前教職センター長(名古屋外国語大学)とのやりとりののち講演は閉じられた。

最後の挨拶は、岸本満名古屋学芸大学副学長である。会場に入った時には、合同祭の活気に満ちた雰囲気とは全く異なる雰囲気に戸惑いもあったが、人の子の親として考えさせられることもあり、多くを考えることになった、有意義な時間であったと思うと締めくくられた。
(名古屋外国語大学教職センター教授 村上慎一)

イベント概要

開催案内

2024年10月27日(日)、【教職映画上映会】[映画『「生きる」大川小学校 津波裁判を闘った人たち』を忘れない]を開催します。

10年間にわたり「なぜわが子が学校で最期を迎えたのか」の答えを探し続けてきた家族の記録映画から、「学校が子どもの命の最後の場所になってはならない」との裁判官の言葉を共有し、これからの社会や学校教育のあり方についてみんなで考えます。

申し込み方法

タイトル 【教職映画上映会】
映画『「生きる」大川小学校 津波裁判を闘った人たち』を忘れない
日時 2024年10月27日(日)10:00~13:00
場所 名古屋外国語大学
日進キャンパス 701教室
アクセスマップはこちら
対象 名古屋外国語大学・名古屋学芸大学の教職課程履修者、教職員、一般市民等
共催 名古屋外国語大学教職センター
名古屋学芸大学地域連携推進研究機構
名古屋外国語大学ワールドリベラルアーツセンター
定員 150名(対面のみ)
その他 参加無料、要申込、先着順
問い合わせ 名古屋外国語大学 教職センター
名古屋学芸大学 サービスラーニングセンター
準備の都合がありますので、事前のお申込みをお願いいたします。
申込方法については、上記の名古屋外国語大学教職センターおよび名古屋学芸大学サービスラーニングセンターのホームページでご確認ください。

2024.10.27 「教職映画上映会 映画『「生きる」大川小学校 津波裁判を闘った人たち』を忘れない」申し込みフォーム

講師プロフィール

吉岡和弘 弁護士(本作出演)

1947年北海道生まれ。弁護士(仙台弁護士会所属)。サラ金・クレジット被害、豊田商事被害、原野商法被害、欠陥住宅被害等の消費者問題に積極的に取り組む。日弁連消費者問題対策委員会副委員長、全国市民オンブズマン連絡会議代表幹事、宮城教育大学非常勤講師など、多方面で活躍されている。

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