グローバルナビゲーションへ

本文へ

ローカルナビゲーションへ

フッターへ



ホーム > 図書館・附属機関 > ワールドリベラルアーツセンター > 2016年度イベント開催のご報告 > 6月3日「男装の女性作家ジョルジュ・サンド─その生涯と現代性─」を開催しました

6月3日「男装の女性作家ジョルジュ・サンド─その生涯と現代性─」を開催しました



2016年6月3日(金)13:20~14:50
フランス語学科主催・WLAC共催講演会
「男装の女性作家ジョルジュ・サンド─その生涯と現代性─」を開催しました。

 6月3日(金)、外大701教室にて、髙岡尚子氏をお迎えし、フランス語学科主催・ワールドリベラルアーツセンター共催による講演会を開催した。サンドの没後140周年にふさわしく約200名もの参加者が集まり、熱心に講演内容に聴き入っていた。髙岡氏は、19世紀フランスを代表する女性作家ジョルジュ・サンド(George SAND,1804-1876)の専門家で、特に19世紀フランス文学、文学とジェンダーの問題を専門領域に活躍されている研究者である。主著に『200年目のジョルジュ・サンド』(2012年)、『摩擦する「母」と「女」の物語』(2014年)などがある。
 ところで、19世紀フランスの一女性作家の生涯に現代性を見出すことができるのだろうかと、疑念を抱く人も少なくないであろう? しかし、 そもそもサンドの精力的な作家活動自体、現在推奨されている「女性の活躍」を意味するものである。また、作家活動のみならず、男装は「ジェンダー越境」である。一方、母親としての子育てと教育、祖母の看取りもこの時代に限った特殊な経験ではない。更に、彼女が男女を問わず実践した「若手芸術家の支援」も今日的な意味を持っており重要である。この他、彼女の名声と芸術家達との交流は、生活の拠点であった片田舎のノアンの村を有名にし、「地域活性化」に繋がってきたという。髙岡氏は講演の冒頭、こうした点を紹介しながら、サンドの中に十分現代性が存在することを指摘された。
 この後、作家「ジョルジュ・サンド」が誕生するまでの経緯、彼女の男装のきっかけとペンネームの問題、当時の絵画が物語るサンドとミュッセ、ドラクロワ、ショパン、リスト、バルザックといった当代一級の芸術家達との交流に話が及んだ。
サンドは、デュドゥヴァン男爵と結婚して2児を授かるが、何かと問題の多い夫との不和が決定的になり別居に至った。当時は離婚が認められていなかったのである。この時の夫婦間の取り決めで、サンドは、1年の半分をフランスの出版文化の中心であるパリで、残り半分を子供達のいるノアンで交互に過ごすようになった。しかし、パリでの生活費が足りず、男爵夫人に見合う服装を調達できないため男装を始めたという。この服装が当時の女性には許されていなかった自由な行動を可能にしてくれたのであった。

 1831年、作家のジュール・サンドーと共同で小説『ローズとブランシュ』を出版したが、この時は彼の名前に由来するJ. Sandというペンネームが採用された。本書の成功から1年後、初めて自分だけで完成した小説『アンディアナ』でG. Sandというペンネームを使用し、やがてGeorgesをGeorgeに変え(これにはサンドの英国びいきが原因という説もある)、この形が定着したという。彼女の真の意味での処女作は大成功を収めたが、著者が女性であることが知られると一転して厳しい批判が相次いだという。彼女はある書簡の中で、「パリでデュデゥヴァン夫人は死にました。ジョルジュ・サンドは逞しい男子として通っています」と言っている。度重なる恋愛スキャンダルや「ジェンダー越境」へのバッシングにも挫けることなく、作品を世に送り続け、職業作家として自立していたサンドには感嘆の念を禁じ得ない。
 講演の終盤で、髙岡氏は、サンドの主要作品の紹介に続き、日本で最も親しまれてきた田園小説『愛の妖精』(1849年)を例に、「女性の役割」、「男らしさとは何か」、「嫌悪と共生のバランス」などといった点に注目することで、作品の持つ現代性の読み解きが可能になることも説明された。
 サンドといえば、日本では、「ショパンの恋人」、「ショパンの庇護者」など、とかくショパンとの関係でしかその名が出て来ないように思われる。そして、サンドに関心の目が向けられるとすれば、それは多くの場合ショパンの生涯と音楽の理解のためなのである。こうした現状を思えば、女性が職業作家として生きることが極めて困難な時代に40年以上もの間作家活動を続けたサンドの生涯について、多様な観点からお話しいただけたことは大変意義深い。


 講演者は、配布資料に参考文献一覧を添える配慮をされた。事実、サンドは政治活動にも積極的に参加しており、まだまだ語るべきことがありそうであるが、まずは、本講演が、ジョルジュ・サンドの世界を知り、その現代的なメッセージを酌み取る切っ掛けになれば幸いである。
 最後に、講演を快くお引き受けくださった髙岡氏と講演実施に向けてご支援いただいた関係者の皆様に厚くお礼を申し上げたい。  (フランス語学科 小山美沙子)